平成二十一年
迎春和楽 吉祥寶来


曹洞宗管長
大本山永平寺貫首
福山諦法

鷲嶺一枝花(じゅれいいっしのはな)

 往昔、釈迦牟尼世尊は、印度霊鷲山に多くの人々と共に説法の座におられました。その時、世尊は金波羅華を把り御目を瞬かれたと伝えられます。お弟子の摩訶迦葉尊者は、にっこりと微笑んで仏陀の深意を理解して応じたという故事が『拈華瞬目・破顔微笑』のお話です。是より、真実の仏法が承け継がれて今日に至り、絶えることはありません。
 元来正法(真理)は不変なのですが、それを覚るか否かによって、人間の行いに是非善悪の違いが生じる場合があるでしょう。
 幸いに広大の慈門が開き置かれました。それが威儀を端正にたもつ「坐禅」です。

 参禅は歴代の仏祖と殊にも両祖大師が説き示しました安楽の法門なのです。この御教えに順って身心を調え日々を穏やかに暮らしたいものです。
 かつて高祖道元禅師さまは、歳旦(元朝)の上堂において、「新年の仏法とは何かと」問われたら、こう道おう「各々人体、居起万福」と。それぞれが幸福に毎日をすごすことが大切であると云われました。又、太祖瑩山禅師さまは、正月十二日に「世尊のお悟りなされた処の正しい御教えを明らかに了解し、自らも成道すべし」と云われました。
 優曇華が出現し、梅花が開き、やがて桃花が咲くように、衆生すべてが自然の中で生かされているのですから、人間も如々として、誠実に過ごさなければなりません。 年頭にあたり、尽十方世界が光明かつ平和で、皆が多幸でありますよう切望いたします。


大本山總持寺貫首
大道晃仙

日出乾坤輝(日出でて乾坤輝く)

平成二十一年の初春を迎え
謹んで皆さまのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます

 元旦は一日、一月、一年の始まりの朝という意味で「三朝」と申します。同じく元日のことを「三元の日」とも言います。
 初日の出の様子を表現したものとして「日の出でて乾坤輝く」という禅語があります。文字通りに、元旦の日の出の風景を描写しているのと同時に、この「日」は「仏さま」を指し、仏法の光明が世の中全てに満ちあふれているさまを示しています。仏国土の現成した世界と言えます。
 仏の真実の世界は、喜びや悲しみ、楽しさや苦しさの中で生きる現実の人生にこそ広がっています。
 今自らが生きているこの現実をおろそかにして、そこからかけ離れたところに何か崇高なものを求めても、結局は虚しい結果に陥ります。
 日常の行住坐臥を調え、他もろもろの存在との関係の中で自らが生かされていることを自覚し、足元を見つめ一歩一歩しっかりと進んでゆくことが肝要です。日常の誠実な歩みの積み重ねによってその人の身心全体が調えられ、それと同時に周りの人びとにもよい影響を及ぼし、自然とその人は多くの信頼を集めるようになってゆきます。
 全てが、知らず知らずのうちに、結果としてそうなっていたという境地です。
 皆さまにとって、本年がすばらしい年であることを重ねて祈念いたします。