お寺知ってるつもり 8

豊川稲荷も曹洞宗


 曹洞宗の僧は修行の力によって民衆のあらゆる願いを受けとめ、供養から祈願まで何でもしてあげました。それで鎌倉期の新興の武士や農民の圧倒的な帰依を受けたため、今でも全国に一万五千ケ寺があります。ちょっとかわった寺院を紹介しておきましょう。

豊川稲荷(愛知県豊川市)
妙厳寺というれっきとした曹洞宗の寺です。守護神として祀られている稲荷は、ダキニ天というインドの鬼神ですが、狐が使いだったので、日本では農業神の稲荷として混同されたのです。

修禅寺(静岡県田方郡)
岡本綺堂の『修善寺物語』で有名になりましたが、何度も幽閉や暗殺の舞台になっています。

恐山(青森県むつ市)
高野山、比叡山とともに三大霊場に数えられる修験の道場でしたが、現在は死者の言葉を伝えるイタコ(巫子)の口寄せで有名です。

茂林寺(群馬県館林市)
近くの古狸が化けて弟子入りし、湯茶を接待した分福茶釜の寺です。

泉岳寺(東京都港区)
赤穂藩主浅野家の菩提寺で、大石内蔵助等四十七士の墓所があります。

とげぬき地蔵(東京都豊島区)
高岩寺は近年『お年寄りの原宿』としてとてもにぎわっています。

羅漢寺(大分県耶馬渓町)
菊池寛の『恩讐の彼方』で有名になった青の洞門ゆかりの寺です。

詩仙堂丈山寺(京都市左京区)
徳川家康につかえた漢詩人の石川丈山の閑居は京都観光の名所です。

 そのほか、天狗さんの沼田市迦葉山や箱根の最乗寺、火伏せの秋葉権現をまつる袋井市可睡斎、竜神を祀って名高い鶴岡善宝寺、日本タイ友好の舎利を祀る名古屋市日泰寺も有名です。
 これらの著名なお寺も、仏像や美術品で有名なお寺は一つもありません。ご承知のように、禅は日本文化と深く融合して「わび」「さび」という幽玄の世界を産みました。また茶道や能などに精神性を与え、芸術として完成させました。しかし、曹洞宗のお寺は民衆への布教を中心としたので、あまり文化財は多くないのです。国宝に限っていいますと、道元禅師のご真筆「普勧坐禅儀」のほかに建造物が少々ある程度です。数少ない国宝のお寺を紹介しておきます。

安楽寺八角三重塔(長野県上田市)
は有名な別所温泉にあり、流麗な八角塔は我が国では唯一のもので、木立の中に咲いた花のようです。

瑠璃光寺五重塔(山口県山口市)
山口は中世最大の国際都市であり、その繁栄を支えた大内氏は多くの文化財を遺しています。その一つ大内盛見が建てたこの塔は、香山公園の緑を背にして優雅な姿を池に映しています。

功山寺仏殿(山口県下関市)
大内氏を亡ぼした毛利秀元の菩提寺です。ここは後に明治維新の英雄の集う処になりました。高杉晋作が奇兵隊を率いて挙兵したのもこの寺です。

 現在は、ほとんどのお寺が世襲となっていますが、永平寺が日本修行第一道場の勅額をいただいた伝統は今も各地の専門僧堂に残っていて、日夜両本山と同じ厳しい修行が行われています。東京麻布の大本山永平寺別院長谷寺は、長谷観音として親しまれています。また大本山總持寺祖院は、本山が鶴見に移る前の地、能登にあります。その他、全国に二十五の僧堂があって、たくさんの僧侶を養成しています。


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